布袋さん

太鼓腹を突き出して、にこやかに袋を担ぐ布袋(ほてい)さんは、七福神の中でも一番の愛きょう者だ。一般には、福徳円満・人格形成の神様として信仰されている。先日、亀岡で600体もの布袋さんと出合ってきたから、さぞや御利益があるに違いない。
丹波七福神のひとつ、養仙寺(亀岡市千歳町)。先代住職がギスギスした世の中を笑顔で明るくしようと布袋像を集め始めたのがきっかけで、いまではその数日本一という。門前から中庭、お堂の中まで大小の布袋さんが所狭しと並べられている=写真=。
トレードマークの太鼓腹は、清濁あわせのむ度量の大きさを表し、肩に担いだ大きな袋には困った人への贈り物がいっぱい入っているそうだ。袋を持たず、手をあげて天を指しているスタイルもある。「貪(むさぼ)り観(み)る天上の月、等閑(なおざり)に逸す掌中の珠」(みんな天上の美しい月を必死で見ようとするが、自分の手の中にあるきれいな玉に気づかない)と説いている姿だという。布袋さんは七福神の中で唯一実在した人で、10世紀の中国の禅僧がモデルとされる。
「人間は、唯一笑う動物といわれます。金持ちも貧乏人も、えらい人もそうでない人も、だれでも顔の筋肉をちょっと緩めるだけで、よい笑顔になれます」。笑顔は周囲を和ませ、平穏をもたらせる。平和な社会はみんなを幸せにする。案内の住職が、にこやかな表情でそう説明してくれた。
この日は京都府観光連盟の招きで、秋の亀岡をあちこち訪れた。近ごろは、何でも町おこし。年間4000万人以上もの観光客がある京都市周辺の中小都市は、その足を少しでもわが町に、とあの手この手の誘引策に知恵を絞っている。保津川下りと湯の花温泉ぐらいしか知られていない亀岡の魅力を再発見してもらおうとの企画だった。
ひととおり見て回った後の意見交換会で、あれこれと観光振興策が話し合われた。名所巡り、温泉、グルメ、交通、広域連携…いろいろアイデアが出されたが、後になってふと布袋さんの顔を思い出した。笑いだ。施設整備にはカネがかかるが、笑いはタダだ。にこやかな街、笑顔による町おこし、そんな切り口もあるのではないか。
「京都」という月にとらわれず、身近な「笑い」をもっと見直してはどうだろう。