啓蟄

「弥生」とは、よく言ったものだと思う。「いやおい」、いよいよ草木の花葉が生い茂る季節というわけだ。
陰暦3月は、だいたいいまの4月上旬から5月上旬に相当する。ことしは暖冬で季節が前倒しになり、語源にふさわしい「弥生」の陽気になっている。
庭の木々がこの2、3日で急に元気づいてきた。いつの間にか枯れ木に緑の葉がつき、くすんでいた常緑の葉はつやを取り戻している。先週半ばに膨らんだクロッカスやジンチョウゲは週末に一気に開花した。草木の持つ精巧なセンサーには驚くばかりだ。
きょうは二十四節気のひとつ、啓蟄(けいちつ)。中国文学者・井波律子さんの解説によると「春風が氷を溶かすころ、地中で冬眠していた虫が動きだし、魚が氷上に浮かび、獺(かわうそ)が獲物の魚を並べ、雁(かり)が南から飛来する」という。
古来、日本でも中国でも人々は季節の気配を動植物の動きで感じ取っていた。現代の気象庁も「生物季節観測」を続けている。ウグイスの初鳴き、ソメイヨシノの開花などだ。普遍性という点では、気温や降水量など科学的な観測データにかなわないが、味気ないデジタル全盛時代にアナログ情報のやわらかさがよい。
他にツバメ、モンシロチョウ、ホタルの初見などもある。ただ残念なのは、その多くが都会では見かけにくくなっていることだ。
 
【写真=庭に咲いたクロッカス①、ジンチョウゲ②】