どぶ板政治

かつて「どぶ板」と呼ばれた選挙や政治のスタイルがあった。下水が発達したいま「どぶ」自体を知らない人が増え、死語に近いが、軒先の溝ぶたを踏みながら政治家が有権者宅を1軒1軒訪ね歩くやり方だ。
住民の不満や要望をじかに聞いて回る活動だが、投票などを依頼する行為は公選法で禁じられている。そのためか「旧来型」「泥臭い」というマイナスイメージが付きまとう一方、民主党の小沢党首のように「政治家の原点」と積極的に評価する見方もある。
先ごろ、神戸市が市会議員から市職員に寄せられた「口利き」件数を明らかにした。同市では汚職事件を機に条例を定め、この種の「働きかけ」を公表することになっている。
それによると、1カ月間に受けたのは124件。その9割以上が地元市議からだったという。「どぶ板」、いまだ健在を思わせる数字だ。大半は、住民からの苦情や要望を取り次ぐもので「不当要求」はなかったそうだが、中には「○○さんに池を売って」「自治会名簿を見せて」といった微妙な「働きかけ」もあったらしい。
地方議員が住民の声を聞き、行政への橋渡しをするのは当然の務めだ。ただ、その動機、利害、中身によっては贈収賄や脅迫、強要になる恐れがある。行政や業者との間に癒着やなれ合いが生じる可能性もある。
来月は、4年に1度の統一地方選が行われる。「口利き」をする側の議員、受ける側の役人はもちろん、頼む側の有権者も「議員とは何か」をじっくり考える機会にしたい。