丸儀「鮒寿司」

近江の特産「ふなずし」をいただいた。魚介を用いた最も歴史の古い日本の保存食、千数百年の歴史を持つ、すべてのすしの原点…とさまざまに形容される湖国の郷土食である。
母の実家が近江八幡、琵琶湖のほとりだったことから、ふなずしは幼いころからなじみの食べ物だった。とはいうものの、あの鼻の曲がるような独特のにおいに耐えられず、長い間食べず嫌いで通していた。
ところが40歳を過ぎたころ、母方の法事で一度はしをつけて以来、たちまち「とりこ」になってしまった。あれほど嫌っていた強い発酵臭が、高級チーズのように思え、乳酸の深いうまみに口中がとろけるよう。ふなずしが数切れあれば、酒杯はいくらでも進む。
皮肉なことに、あれほどふんだんにあったふなずしだが、もとになるニゴロブナの激減で高騰、いまや市価1尾数千円から1万円前後もする超高級食品におさまっている。「こんなうまいのなら、もっと若いうちから食べといたらよかった」と悔やんでも、もう遅い。
いただいたのは、創業1886(明治19)年という彦根市の老舗「丸儀(まるぎ)」福田儀三郎商店の極上品。パックをあけ、さっそく薄切りにして熱ごはんの上に。強烈な酸味がごはんの甘味を引き立てる。2尾いただいたが、あっという間に1尾がなくなった。さて、2尾目は酒のさかなか、番茶で茶漬けか。考えただけで生つばがたまってきた。
「鮒寿しや 彦根の城に 雲かかる」(蕪村)
 
 ★★★★★(滋味無上)