ふなずしの危機

きのうのブログで「ふなずし」を取り上げたら、その希少ぶりについてのお尋ねをいただいた。直接の原因は、素材になるニゴロブナの減少で、その背景には琵琶湖の水質や生態系の変化による複合的な要素が指摘されている、と答えた。
もちろん、それは行政や研究者、漁業関係者らがそろって認めているもので、一種の「定説」と言ってよい。ただ以前、滋賀県高島市の老舗のおかみさんが、こうした説とは別に興味深い話をしてくれたので、ここで紹介しておきたい。
俗にふなずしは「百匁(もんめ)百貫千日」といわれる。百匁(375g)のフナをふた抱えもある百貫(375kg)の桶に漬け、千日(約3年)の時間をかけて作るそうだ。この店の仕込み場には、昔ながらの大きな木桶がいくつも並んでいる。
その桶づくり職人が後継者難で、満足に作れる人はいまや県内にひとりしかいないというのだ。大型のポリタンクに切り替えているメーカーもあるが「木桶とは(ふなずしの)出来具合が全然違う。あのおじいさんが亡くなったら、うちの商売もおしまいです」とおかみさんは言っていた。
ふなずしの危機は、環境破壊と結び付けて論じられることが多い。それはそれで間違いなかろうが、問題の根はもっと深そうだ。千数百年、日々の暮らしと密接不可分の中ではぐくまれてきた食文化のすごさ、手ごわさをその時あらためて思った。