名跡が泣くぞ

落語といえば、長屋住まいの八っあん、熊さんの世界だと思っていたが、近ごろ演じるほうは長屋どころか地下室まで備えた豪邸にお住まいらしい。
9代目林家正蔵が、東京国税局から1億2000万円の所得申告漏れを指摘され、重加算税を含む約4000万円を追徴されていたことが明るみに出た。税務調査の際、自宅の地下室から空の祝儀袋多数が見つかり、アシがついたのだそうだ。
祖父は7代目正蔵、父は昭和の爆笑王・林家三平。親子3代にわたる真打は史上初、当代落語界を代表する名門の御曹司だ。2年前の襲名披露では派手な都内パレードをはじめ、全国約60カ所で盛大な記念興行を打ち、多額の「御祝儀」が転がり込んだらしい。
地下室は、ジャズ好きの本人がオーディオルーム兼映写室に使い、LP3万枚、CD1万枚以上を所蔵しているという。本人は会見で「中身を抜いた祝儀袋と入った祝儀袋を、襲名時の道具と一緒に置いていて、忙しくて忘れていた」と述べたそうだ。
「意図的に所得を隠そうとしたものではなく、(国税局との)見解に相違があったが、指摘に従って修正申告した」。どこかの脱税企業みたいな正蔵事務所の物言いに、思わず笑ってしまった。
落語家は清貧でいよ、というつもりはない。大いに稼げばよいが、あまりさもしい行いは恥ずかしい。かの初代桂春団治は、興業会社との争いで家財を差し押さえられた際、差し押さえの紙を自分の口に張りつけて「一番金目のものに張らんでもよろしいのんか」と執行官にうそぶいたという。はなし家のツブも小さくなったものだ。