大文字の見物マナー

かかりつけの治療院待合室で。男性の患者と受付係の女性の話が弾んでいる。
「大文字見物のおすすめスポット、ありませんか」と女性。男性は地元の住民らしい。「そら、船岡山やな。左大文字が目の前。パチパチ木の焼ける音はするわ、火の粉が飛んでくるわ、迫力満点やで」。
16日は五山送り火だ。「ところで○○さん、今年もそこへ行かれるのですか」と問われた男性は「いや、ぼくは行かん。最近はマナーが悪いから」と答えた。
当夜は大型バスが競うように観賞スポットを求めて走り回り、これまで地元の人しか行かなかった場所にまで大勢の見物客が押しかけるようになった。そこで思わぬトラブルが起きるのだという。
「ビニールシートを広げて場所取りまでする者がいる。地元の住民が注意すると、何が悪い、と食ってかかる。前に人が立つと、自分たちが見えないと文句を言う…手がつけられん」
大文字は立って見るものや、と男性は言う。午後8時、東山の大文字を皮切りに、15分ずつずらしながら北山から西山へと順番に点火されていく。見物客もそれに合わせて見る場所を少しずつ移動しながら観賞する。
「鴨川の土手のような広い場所ならともかく、狭い雑踏の中で、自分だけ好適地にデンと座って動かん、ちゅうのはいかん」。大文字は花見ではない。そもそもご先祖のみたまを送る火を横着に座って見るのがおかしい−2人の会話を聞いていて、なるほどなと思った。