復活した優先席

ビジネスの世界で、よく「時代の半歩先を行け」と言われる。商機をつかむには、時流に敏感でなければならない。「時代遅れ」は論外だ。かと言って、1歩も2歩も先へ進みすぎては、みんながついて来れない。「半歩」の間合いが肝要、ということらしい。
8年前に「全席が優先座席」として車内の優先席を撤廃した阪急電鉄が、このほど元のように復活させた。今年6月の株主総会で「阪急にだけシルバーシートがなく、席を譲ってもらえない」との声が上がり、それが復活のきっかけになったという。
わざわざ「優先」と言わなくても、お年寄りや体の不自由な人たちに席を譲るのは当たり前だ。その意味では、阪急が撤廃時に掲げた「主張」は正論だ。しかし、現実は違った。「優先」の表示がないから譲らない、譲ってもらえない−。
理想がいくら正しくても、現実がついていかなければどうしようもない。現状での優先席復活はやむを得ない、むしろ妥当な後戻りだと思う。
ただ、阪急はこの間、もっとなすべきことがあったのではないか。優先席を取り払った後、車内アナウンスやポスターだけに頼らず、こまめに車内を巡回し、利用客らに積極的に声をかけてもっともっと協力と理解を促すべきではなかったか。
しょせんは個々のマナーの問題、そこまで立ち入ったことは無理−と言うなら、最初から撤廃すべきではなかった。一足飛びのショック療法ではなく「半歩」ずつの積み重ねがあれば、また違った展開になっていたかもしれない。