ちゃんとする

残酷な光景だった。きのうの東京国際女子マラソン月桂冠をかぶった野口みずき選手が喜びの優勝インタビューを終え、笑顔を振りまいている画面の後方に、トボトボと今にも止まりそうな足取りでゴールに向かう渋井陽子選手の姿が重なった。
アテネ五輪、大阪世界選手権に次いで3度目の代表選考会挑戦。野口選手との「同期生対決」とはやされ、期するところは大きかったはずだ。前半の向かい風にもおくせず、先頭に立ってレースを引っ張ったが、30km目前で失速、自己ワースト記録で7位に終わった。
サングラスの下で渋井選手は泣いていたに違いない。足が上がらず、次々と後続ランナーが抜いていく。遠ざかる前の選手の背中と一緒に「北京」の夢が消えていく。プライド、失望、後悔…失速した渋井選手にとって、残りの10km余は「針の道」だったのではないか。
それでも彼女はレースを捨てなかった。最後は、テレビ観戦の素人にでも追い抜けそうなスピードだったが、歩かなかった。「自分ならきっと途中で放り出しただろうな」と思い、渋井選手の敢闘に感動を覚えた。
さらにえらいと思ったのは、鈴木秀夫監督だ。彼女と二人三脚で五輪出場を目指してきた監督にとって、無念の胸中は察するにあまりある。その彼が、惨敗に沈む渋井選手に「負けた時ほどちゃんとしよう」と促し、レース後の表彰式に戻らせたという。
勝負は非情だ。でも、勝ち負けだけがすべてではない。この選手と、この指導者なら、また違う活躍の場がきっとある。