作文の基本

さるシンポジウムに参加した。ネット社会の問題を「人権」という角度から考えようとの趣旨だったが、その中でパネリストのひとり、高知県で小学校長をしておられる女性Yさんの発言の一部が印象に残った。

「夜に書く手紙は感情的になりやすい。朝もう一度読み直してから出すように、と昔から教わってきたし、そう教えている」。そんな趣旨だった。

小学生にまで普及している携帯メールに触れたくだりでの発言だったが、メールに限らず、これは文章を書く上でもなかなかおもしろい指摘だと思った。

小説家などの中には夜中に仕事をする人が多いようだが、それはプロの話。一般的には、夜がふけて静かな空間でペンを持つ、いやキーを操作していると、ついつい自分だけの世界に入りがちだ。プロの場合は、それがまた創作の源になるのだろうが、自分の思いばかりが出過ぎると周りが見えにくくなる。思いに思いが重なり、そのぶん現実から遠ざかってしまうのかもしれない。

わが身を振り返ると、文章を書くのはわりと速いほうだ。でも「いっちょう書いてやろう」なんて力が入りすぎると、かえって書けなくなる。単純なはずの思考回路がこんがらがって、もつれた釣り糸のようになってしまうのだ。そんなときは、いったん筆をおく、画面を閉じて、違うことをするようにしている。

「朝に読み直す」というYさんの教えは、夜が明け、周りが見やすくなった中でその「もつれ」を解こうというものだ。もつれに見えたものが、ただの思い込みだったというような場合もあるだろう。

思いついたまま、すぐ字にするのではなく、一度はんすうして文をつづる。そんな文章作法の基本を教えられた。