変わる地蔵盆

京都の子どもたちにとって「地蔵盆」は、残り少ない夏休みを楽しむ最後の行事だ。8月22−24日に行われるのが普通だが、近ごろは世話役の大人の都合で土、日に催すところが増えた。きょうあたりが一番多いかもしれない。
京都市内には約5000の公式町名があるそうで、旧市内の町内には必ずといってよいほどお地蔵さんがまつられている。地蔵菩薩は地獄の鬼から子どもを救い上げてくれると信じられ、地蔵盆はお地蔵さんにお供えをし、その前で子どもたちが元気に遊んで加護を願う。
京都固有のこの行事も、ご多分にもれず少子化の影響を受けて変容しつつある。子どもの減少に加えて、ビルやマンションの建設でお地蔵さんが「立ち退き」を迫られたり、新興地の中には宗教行事の「押し付け」などとして反発する向きもあり「こどもまつり」に名前を変更するなど、お地蔵さんへの風当たりは年々強くなっている。
きのう自宅近くを自転車で走っていて、ふたつの「地蔵盆」を目にした。場所はいずれも新旧住民が混在する京都市北区の住宅街。1つめは、通りの角にあるお地蔵さん。地蔵盆を迎え、ほこらがきれいに掃除され、真新しい「卍」の幕が飾られている。ところが周囲にはだれもおらず、子どもの気配もない。ひょっとしたら、この町内には子どもがいないのかもしれない。手入れされたお地蔵さんだけがポツンと寂しそうだった。
もう1つは、少し離れた通りの角。「地蔵盆プログラム」の大きな張り紙が掲げられていた。20日に行われる行事の予定が子どもの字で書かれている。しかし、お地蔵さんのほこらは見当たらず、「場所」は個人宅の前庭になっている。たぶん、この町内にはお地蔵さんがないのだろう。でも「読経」の時間は書かれているから、この日だけどこかのお寺から借りてくる「レンタル地蔵」に違いない。
3年前に引っ越してきたばかりのわが町内も、実はレンタル派。それも昨今は引っ張りだこで、なかなか借りられないそうだ。で、昨年は上京区のこども劇場への演劇鑑賞に切り替え、ことしは個人宅での金魚すくい、カレーライスでお茶を濁しているらしい。
時代とともに伝統行事も変わる。それがどう変わろうと、やさしいお地蔵さんは何も言わず、穏やかな笑みをたたえて見てござる。