優勝投手のハンカチ

「だれかにもらったのだろうか」「何枚も持ってるのか」「宿舎に泊まっていてて、だれがアイロンあてているの」
いやはや、ネット掲示板の書き込みのにぎやかなこと。甲子園で優勝した早稲田実業斎藤佑樹投手だ。マウンド上でユニホームのポケットから取り出して汗をぬぐう「青いハンカチ」が話題を集めた。再試合になったきょうの決勝戦でも、何度かそのシーンがテレビに大写しになった。
試合中の汗は、ユニホームのそでやアンダーシャツに顔を押し付けてぬぐうのが多い。お尻のポケットにタオルを入れている選手も少なくないが、ハンカチというのは珍しい。実際は小さなフェースタオルらしいが、きれいに小さくたたんで、ぬぐうとまたきちんとポケットにしまい込む。その淡々とした表情、しぐさに人気が集まった。ネットには「ハンカチ王子」とも書かれている。
慶応ボーイで財界から政界に転身した故・藤山愛一郎元外相は「絹のハンカチ」にたとえられた。実用性の高いタオルに比べ、ハンカチはどこか上品で取りすました雰囲気が漂う。流行歌の「赤いハンカチ」、映画の「幸福の黄色いハンカチ」をタオルに置き換えてみると、よく分かる。タオルでは汗のにおいが先に立つ。
本当の斎藤投手がどうかは知らないが、小さなハンカチからいつの間にか「きちょうめん」というイメージが生まれた。古くは王、尾崎、板東から清原、桑田、松坂まで力強いプレーで甲子園をわかせた名選手は数多い。37年前に同じく延長再試合を演じた太田幸司投手や早実の先輩・荒木大輔投手には「アイドル」的な要素もあったが、「きまじめ」で「クール」なヒーローは初めてではないか。
現実にないものやほしいと願うものを体現するのがヒーローとすれば、斎藤投手のハンカチ人気もこの時代のなにがしかの空気を反映しているように思える。