落ちた冥王星

3増案から1減案へ。国会の定数是正の話ではない。太陽系の惑星数をめぐって論議していた国際天文学連合が、きのうの総会で冥王星の除外を決めた。「水金地火木…」と覚えさせられてきた惑星の数、一時は現行の9つにさらに3つ加える案が出て驚かされたが、結局1つ減って「…土天海」までの8つに落ち着いた。子どもたちは、覚える星の数が少なくなってホッとしていることだろう。
冥王星が惑星かどうかの論議はいまに始まったものではなく、1930年の発見直後から問題になっていたそうだ。大きさや構成、軌道など他の惑星と異なる点が多いのが、その理由だった。その意味で今回の総会では「惑星」の定義を明確にして、それと合致しない冥王星を外したということになる。
冥王星は、太陽から約59億km。仮に地球から時速200kmの新幹線でノンストップで行っても1200年以上かかるという計算もある。熱心に天文学を研究している人たちには悪いが、そんな気の遠くなるほど離れた星の扱いを「歴史的決定」などといわれてもピンと来ないというのが正直なところだ。
それよりも面白かったのは「真理はひとつ」とする科学の世界で、多数決が採られたことだ。もともと冥王星の発見者は米国の研究者で、冥王星が外されることに危機感を持った米国側が類似した3つの星を追加して惑星の「枠」を広げようとしたのが今回の論議の発端とされる。それに対して他国の研究者らは定義を明確にして、あいまいな冥王星を外そうとの動きに出た。いわば、米国科学界の「威信」「メンツ」をかけた綱引きでもあったのだ。
その結論の当否は別にして、世界の天文学者2000人による採決の光景は、なにやら国連の安保理みたいで、学術の場にそぐわない気がした。そういえば、有名なガリレオの地動説を退けたのも「宗教裁判」という名の多数決だった。
米国で94歳になるという冥王星発見者の妻が、テレビの取材に対して「科学は変わるものです」と淡々と答えていたのが印象に残った。