あえぐ銭湯

「当分の間、休業します」。少し前から、表に張り紙が掲げられているのは見て知っていたが、さほど気にはかけなかった。職場に近い京都市中京区の銭湯。時期がちょうどお盆のころだったので、てっきり盆休みか何かだと思っていた。
その理由が、原油価格の高騰で休業に追い込まれたらしいと知人から教えられたのは、つい最近のことだ。知人は大の風呂好きで、仕事帰りにタオル1枚持って自転車で市内のあちこちの銭湯巡りを楽しんでいる。
以前、住んでいた上京区の銭湯では、石油ショックの時、重油でたいていた釜をやめ、昔ながらの木を燃やす方式に切り替えた。かつての石炭から重油へ、そして元の木に。時々のエネルギー事情に振り回されてきた。主人だけでなく、息子も一緒に毎日、どこからか運び込まれる廃材の山を1本ずつ電動ノコで薪用に切りそろえていたのを思い出す。
最盛期には600軒を数えた京都府内の銭湯も、いまでは260軒に減っている。もともと重労働で、後継者難。家庭風呂の普及に加えて、スーパー銭湯日帰り温泉の進出で苦戦が続く。そこへ追い討ちをかけるかのような原油価格の高止まり。重油の値段は昨年より1.6倍も上がっているそうだ。
現行の銭湯料金は大人370円。先日、これを20円引き上げて390円とする答申が知事あてに行われ、10月1日から値上げされる見通しになった。これで息を吹き返したのかどうか、上述の銭湯の前をきょう通ったら「9月1日から再開します」との張り紙が出ていた。心なしか、マジックで書かれた文字が弾んで見えた。
390円の料金は、大阪などと並んで、東京、神奈川に次ぐ全国3番目の高さという。これで当座の苦境がしのげればよいが、反対に客離れが加速しはしないか。「銭湯の町」ともいわれる京都のお風呂屋さんの湯加減が気にかかる。