子猫売り

なんとも嫌な光景を見てしまった。四条大橋のたもとで、信号待ちしていたタクシー車内から何気なく外をながめていた時のことだ。歩道のわきで中年男性が自転車を止め、段ボールの切れ端に「拾った子猫」と書いた札を掲げている。「1匹200円」。その下に生後まもなさそうな小さな子猫数匹が箱に入れられていた。
タクシーが発車したので詳しくは分からなかったが、男性はどこかで拾った子猫を売っていたのだろう。周りに中高生らしき女の子が数人、箱の中をのぞき込んでいた。
札に書かれていたとおり、捨て猫を「拾った」だけなら罪に問われることではなかろうが「1匹200円」には引っかかった。町のペットショップでも売っているのだから、と思えば何でもないのかもしれないが、粗末な段ボール箱に入れられたやせた子猫の姿にやるせない思いがした。
先ごろ、タヒチに住む直木賞作家の女性が、3匹の飼い猫が子猫を産むたびに近くのがけの下に投げ込み殺していると新聞のコラムに書き、話題になった。「こんなことを書いたら、どんなに糾弾されるかわかっている」という書きだしに始まり「猫の生を尊重するため避妊手術をしない代わりに、社会に対する責任を果たすために生れた子猫を殺している」との趣旨で「もちろん、それに伴う殺しの痛み、悲しみも引き受けてのことである」と述べた。
動物を飼うことの覚悟と責任をあえて問うたつもりだったのだろうが、彼女の予想通り「糾弾」のメールや投書が新聞社に寄せられ、ネット掲示板にも同様の書き込みが殺到した。
重いテーマであり、外野席から彼女の行為をここでどうこう言うのは避けたいが、少なくとも「かわいい」というだけで動物を飼ってはいけないと思う。「200円」と値段をつけられた小さな命が、どういういきさつでそうなったのか、そしてその後どうなったか。いまも気にかかっている。