運動会シーズンに

Aちゃんは、近くに住む小学1年のかわいい女の子。運動会の前夜に出会った時、ちょっぴり緊張気味だった。「別に勝たんでもええから、一生懸命走るのやで。今晩は、はよ寝て」と声をかけたら、こっくりうなずいていた。
翌日夕、表で見かけたので「どうやった?」と聞いたら、横にいたママが「50m走も障害物走も1着でした!」。AちゃんもVサインをして、晴れ晴れとした表情だった。よかった。
足の速い子も、遅い子も、運動会はだれでもドキドキ。親やおじいちゃん、おばあちゃんまで弁当持って応援に来るのだから、その前で勝ちたい気持ちはよく分かる。
学校側も、なるべく差がつかないよう、あらかじめタイムを計って同じくらいの速さの子同士をそろえて走らせるようにしている。ところが、4年生あたりになってくると「悪知恵」を働かせる子が出てくる。事前のタイム計測の時、わざと負けて、自分より足の遅い子の組に入れてもらう。そして本番で楽々1等賞を、という魂胆だ。
先生もそこは先刻承知で、まだ欲のない春の記録で組を決めたり、さりげなくタイムを計っておく。わざと遅く走る子には「今学期の体育の成績はこれで付けるぞ」と脅すこともあるそうだ。しかし、敵もさるもの、そんな場合は「足が痛い」「体の調子が悪い」などと言って授業を休むらしい。ふだん、少年野球やサッカーで活躍している子に限ってこの手合いが多いというから、憎らしい。
厳格な子弟教育で知られた江戸時代の会津藩では、6歳になると地域ごとに「什(じゅう)」という組織に入れられた。子どもは毎日、当番の家に集まり、年長者に従って「什の誓い」を大声で唱えさせられる。
「年長者の言う事には背いてはなりませぬ」に始まり、誓いは7カ条に及ぶ。その中に「うそを言う事はなりませぬ」「ひきょうな振る舞いをしてはなりませぬ」「弱いものをいじめてはなりませぬ」という項目がある。最後は有名な一節「ならぬ事はならぬものです」で結ばれる。
運動会はもちろん勝ち負けを競うが、勝つ難しさや負ける悔しさ、勝者への尊敬、敗者への思いやりなど、人生を生きていくうえで重要な事柄を学ぶ場でもある。たかが運動会と侮ってはいけない。ひきょうなことはするな、ならぬことはならぬ。親も学校も校外活動の指導者も、先人の歯切れよい教えに学ぶところは多い。