「霊界案内人」の死去

「霊界の案内人」を自任していた俳優の丹波哲郎さんが亡くなった。テレビドラマ「三匹の侍」の豪快な立ち回りや「Gメン75」のタフなボス役などが印象深いが、もう84歳だったそうだ。
どちらかというと「剛」のイメージが強かった丹波さんが「霊界」うんぬんを口にした時には、意外な感じがした。真顔か、演技だったのか分からないが、丹波さんがこむずかしい顔をして「死んだらどうなるか」などと話していたのを覚えている。
丹波さんの「霊界」に関する映画や著作を読んだわけではないが、要するに現世での行いをきちんとしていないと霊界でもそれ相応のところへしか行けないという趣旨だったらしい。とすれば、仏教などの来世観とも共通するところはあるようだ。
子どものころ、清水寺へ通じる坂道の店先に「六道絵」と呼ばれる地獄絵図が飾られていた。閻魔(えんま)大王に裁かれて地獄へおちた罪人が、赤鬼や青鬼の獄卒に追い立てられて針の山や血の池で苦しむ様子を描いた図で、横から親が「悪いことしたら、こうなるのや」と諭す。子ども心に地獄とは恐ろしい所だと思った。
丹波さんは、これを現代風に置き換えて独自の「霊界」を描いた。映画の観客動員は300万人ともいわれているから、「あの世なんて」と言いながら多くの人が「死後の世界」には興味を持っているらしい。京都市東山区の珍皇寺(ちんこうじ)は古来、現世と霊界との接点とされ、平安貴族の小野篁(おののたかむら)が夜ごと本堂裏の井戸から両界を行き来して閻魔大王に人々の行状を伝えたとの伝説もある。
この世に別れを告げた丹波さん、いまごろ霊界のどのあたりを歩いているのだろう。ほんとに「あの世」はあるのか、どうなっているのか。できれば、あのいたずらっぽい笑顔で本当のところを教えてほしいものだ。