展望の日

きょう、10月1日は「展望の日」。と言っても、なじみがないのは仕方ない。ことし初めて制定されたらしく、まだ日本記念日協会にも認定されていない。定めたのは、全国19の展望、観光タワーが加盟する「全日本タワー協議会」。10は英語で「テン」、1は縦の「棒」。テン+ぼう=展望、とややこじつけ気味だ。
苦しいのは、ごろ合わせだけではない。どこのタワーもできた当初は「新名所」などともてはやされたものの、年とともに客足は伸びず、低迷しているところが少なくない。「高さだけでは客は呼べない」と知恵を絞ったのが、このアイデア。せっかくの第1回、あいにく全国的に雨や曇りのようだが、東京タワーや通天閣など協議会加盟の各施設では記念のイベントが行われているはずだ。
JR京都駅前に京都タワーがつくられたのは、東京五輪の行われた1964(昭和39)年12月。古都の「活性化」か「破壊」か、建設の是非をめぐって学者や文化人らも加わり大論争が行われた。駅ビルをはじめ面目を一新した現在の京都駅前では、いまや昭和の面影を残す数少ない建造物になってしまったが、思えば京都の「景観論争」のはしりでもあった。
「○○と煙突の煙は高い所へ上りたがる」と言われるが、ご多分にもれず内外の「高い所」へはずいぶん上った。修学旅行での東京タワーを皮切りに、札幌、名古屋のテレビ塔通天閣、ポートタワー、琵琶湖タワー、五稜郭タワー…。360度を見渡す眺望、眼下に見下ろす街、晴れ晴れとした気分になれるのがよい。
テロ爆破でいまはないニューヨークの世界貿易センタービルへは高速エレベーターを3回乗り継いで上った。地上110階、強風の屋上から北にエンパイアステートビルを見下ろし、南のハドソン川河口に自由の女神像を望んだ光景は目に焼き付いている。
長いらせん階段を歩いて上るバチカンサン・ピエトロ大聖堂では、キリストと十二使徒の石像の間から中世の町並みを見下ろした。屋上階段の壁には、世界各国語で書かれた落書きがびっしり。もちろん、わが同胞の文字も。どこにも煙突の煙と同じ○○はいる、と妙な感心をしたものだ。
何かにつけて展望しにくいご時世。高い建造物だけでなく、この日が広く世の中を見渡すきっかけになれば、と思う。