お疲れ、ハルウララ

競馬はやらないのに、この馬の名前は知っていた。ディープインパクトのことではない。ハルウララ。113連敗で全国にその名をはせた高知競馬の元スターだ。
04年8月のレースを最後に、栃木県内で「休養」していたが、このほど競走馬登録を抹消し、引退が決まったそうだ。メス10歳。とうとう1度も勝つことなく、ターフを去る。
彼女の話は、数々の本や写真集、映画でも取り上げられ、広く知られている。1996年、北海道三石町の牧場で誕生。当初から買い手がつかなかったという。98年11月に高知競馬でデビューしたが、5頭中5着。その後を予感させるスタートだった。
病気やけがで休むことなく、月に1、2度のペースで出走し続けたが、1度として勝つことはなく「無事、これ名馬」を地で行った。負けても、負けても、懸命に走る姿がマスコミを通じて人気を集め、やがて「負け組の星」と呼ばれるまでに。「絶対当たらない」というわけで、たてがみやしっぽの毛を入れた交通安全のお守りが売り出されたり、県交通安全協会のPRステッカーにも起用された。
勝負の世界で、これだけ負けて人気者になった例も珍しい。「1番がおれば、ビリもおる。あたりまえやん」−映画の宣伝文句にもある通り、人々は自分たちの人生と重ねながら、彼女を応援し、彼女から元気をもらったのだろう。
折しも、中央競馬のエリート三冠馬ディープインパクトがフランスのレースに出場、世界の強豪を相手に3着の健闘で話題を集めたばかり。騎乗した武豊騎手は、04年3月にファンの要望にこたえてハルウララに乗り、高知競馬場を沸かせたことがある。
当日のレース入場者1万3000人、馬券売り上げ5億1100万円は、高知競馬史上最高記録だ。しかし、当代きっての天才ジョッキーをしてもなお、レースでは11頭中の10着だった。
周囲には、まだ「再起」を望む声もあるらしいが、もういいではないか。「競走馬では勝てなかったけど、今後は人のために新たな仕事で生き抜かせることで勝たせたい」という女性オーナーの言葉を信じたい。人生ひと幕では終わらない。どっこい、別の形で2幕も3幕もあることを見せてもらいたい。