変わり辞書

近ごろ、変わった辞書が出ている。まだ、実際手に取って見たことはないのだが、新聞の書評欄や広告で最近とみに見かける。
「不知火」が読めないとする。ならば「ふちか」で探す。すると、ちゃんと「しらぬい」の正しい読み方にたどり着ける。名づけて『ウソ読みで引ける難読語辞典』(小学館)。
紹介記事によると、大学生を中心にしたアンケート調査で「ウソ読み」、つまり誤った読み方がされやすい3000語を集め、誤ったままでも目的の言葉が探せるようにつくられているという。これなら「灰汁」を「はいじる」として引けば、簡単に「あく」と分かる。なるほど、よく考えたものだ。
これとは別に「漢ぺき君」と呼ばれる新しい引き方を提唱する辞書もある。こちらは『漢ぺき君で引く 現代漢字辞典』(サンルイ・ワードバンク)。広告には「蠢」という漢字が例に使われている。「春」の下に「虫」が2つ。そこで「は(る)、む(し)、む(し)」の頭文字「はむむ」と引けば「蠢」に行き当たるというのだ。「現」なら「王」と「見」。だから「お(う)け(ん)」で「おけ」、またはそれに「見」の訓も入れて「おけみ」でも可。同社はこれを、従来の部首、画数、音訓に次ぐ新しい引き方とうたっている。
近ごろの大学生の国語力低下は目を覆うばかりだ。学力の低下は国語力に限った話ではないが、読み書きの能力は一般企業の入社試験などでも目立ちやすい。四字熟語「○肉△食」の問いに「焼肉定食」と答えられては、試験官も笑うしかなかろう。
両辞書は、こうした実態を踏まえて考案されたに違いない。しかし「ウソ引き」では、まず「はいじる」が「ウソ読み」であると自覚していることが前提になる。初めから「はいじる」が正しいと思い込んでいたら、辞書を引くことはないからだ。「漢ぺき君」にしても、部首の読みが明確なものはよいが、「灰」ならどんな文字列になるのだろう。それにはそれなりの方法があるのだろうが、そんな検索法を一から学ぶぐらいなら、従来の部首引きや画数引きで十分ではないか。
人間、だれしも勉強は楽して済ませたい。しかし、勉強は「強いて勉める」ものでもあることを忘れてはならない。