三冠馬の薬物疑惑

フランスの競馬レース「凱旋門賞」を走ったディープインパクトから禁止薬物が検出された、というニュースが昨夕飛び込んできた。舞台は「世界最高峰」とされるレース、主役は日本の天才ジョッキー騎乗の三冠馬、事実とすれば国際的な大スキャンダルだ。馬の名前のとおり、大きな衝撃(インパクト)が走った。
いまのところフランス、日本の関係機関とも簡単なコメントしか明らかにしておらず、真相は分からない。伝えられている断片情報をつなぎ合わせると、レース後のドーピング検査でディープインパクトから欧州で禁止されている薬物の反応が出た。この事実は動かないようだ。
問題は、なぜそんな反応が出たのかということだ。日本中央競馬会(JRA)の説明では、渡仏後のディープインパクトが体調を崩し、現地獣医師の指示で人間のぜんそく薬にあたる気管支拡張剤の投与を受けたという。日本から同行した獣医師もいたらしい。この薬は、日本の禁止薬物ではなかったが、欧州ではそもそも体内に存在しないすべての物質が禁止されているそうだ。
故意か、過失か。故意なら、だれが、どんな目的でやったのか。ドーピング検査があることぐらい、関係者ならだれもが知っている。日本馬には勝たせたくないとの謀略説、薬物投与の際の言葉の行き違い説など、なぞがなぞを呼んでいる観がある。
仮に過失だとしても、欧州で薬物使用が固く禁じられているのは周知のはずだ。日本を代表する騎手、調教師、獣医師ら大勢のプロがそろっていて、未知の薬剤投与ならなおのこと、だれもおかしいとは思わなかったのだろうか。それが不思議だ。コースの坂がどうの、芝生の長さがどうの、といった細かい話以前の問題ではないか。
いまのところ、フランス競馬統括機関の幹部は「不正ではなく不注意による治療薬の投与ミス」との見方をしているそうだが、どんな裁定が下るか。結論の行方が気になるところだが、JRAの対応にも注文をしておきたい。
あれほどディープインパクトの海外遠征をあおってきたではないか。事と次第によっては、競馬界にとどまらず、日本人のフェアプレー精神や品性まで問われかねない。フランスの審査を待つだけでなく、JRAの面目をかけて真相解明に全力を挙げ、積極的に情報を内外に開示すべきだ。