市電復活計画

京都市路面電車の復活を計画している。来年1月にも今出川通出町柳北野白梅町間(4.1km)で市電に見立てたバスを走らせ、導入実験を始めるという。
京都の町から市電が姿を消したのは、1978(昭和53)年。日本の市街電車発祥地として住民の間には廃止反対の声も強かったが、結果的に車社会のすう勢に押し切られた。あれから、ざっと30年。状況は変わったのだろうか。
市電廃止の最大の理由は、交通混雑の緩和だった。戦災を免れた京都の狭い通りに車があふれ、市電の軌道敷きにまで入り込む。交差点ごとに信号待ちの車に市電は行く手を遮られ、ダイヤが乱れる。停留所で待てど暮らせど一向に来ない電車にいらいらを募らせ、やっと来たかと思えば同じ行き先の電車が「だんご状態」で一度に来る。そんないら立ちをほとんどの人が経験したはずだ。
「マイカー観光拒否」が検討されたこともあるが、観光都市としての側面から立ち消えになった。「だんご運転」による乗客離れで慢性的な赤字に陥り、おまけに交通渋滞の責任まで一身に押し付けられて退場に追い込まれたのだった。
市電廃止によりレールが撤去され、車道は広がったが、自動車の数は増え続け、市内中心部の交通混雑はその後も解消されるどころか、渋滞の度合いはよりひどくなった。今回の市電復活計画で「交通渋滞が慢性化する中、騒音や大気汚染など環境面でバスより電車のほうが有利」と説かれているのは、皮肉な回帰としかいいようがない。
導入が計画されているのは、床が低く乗降しやすい「次世代型路面電車」だそうだ。かつての市電より音も静かで、揺れも少ないのだろう。高齢者や障害者にやさしく、観光客にも親しまれることになれば、それ自体はよいことだと思う。
しかし、電車の仕様や形は変わっても、通りの幅は相変わらず、昔のままだ。むしろ歩道の整備などで狭くなっている所も少なくない。市は実験に当たって一般車両だけでなく、荷おろしの車両も乗り入れを控えるよう呼びかけている。これでは、何のための「実験」か分からない。ふだん通りの通行量の中でこそ、本当に市電が円滑に走れるのかどうかを見極める必要がある。
厳しい財政事情の下、バラ色の復活計画だけでなく、きちんとした需要予測や採算見通し、バス・タクシー事業者や沿線住民への影響などクリアすべき課題は多い。