やらせミーティング

5年前、就任したばかりの小泉首相が「タウンミーティング」を始めたとき、何か新しい「風」みたいなものを感じた覚えがある。「公聴会」などとお堅い役所言葉ではなく、わざわざカタカナ語の「ミーティング」を使ったのが印象的だった。
ふつう「ミーティング」と言えば「身内の打ち合わせ」といった意味合いで使われることが多い。そんな打ち解けた雰囲気で行う「出前ご意見拝聴会」ですよ−好意的に取れば、そんな意図がうかがえたように思う。
それが大きな誤解であったことが、ここ数日のニュースで分かった。9月に青森県八戸市での「教育改革タウンミーティング」で文科省があらかじめ参加者に教育基本法改正への賛成発言を依頼していた事実が発覚、その後の調べで他に岐阜、和歌山など4カ所でも同じような「やらせ質問」のあったことが判明した。
「やらせ発言」のほか、参加者(発言希望者)に当該官庁出身者を潜り込ませるといった疑惑まで指摘されており、政府は急きょ当面のタウンミーティングを中止、過去行われた170回余に上る全ミーティングの洗い直しを迫られている。
議会で役人が自分たちに都合のよい方向へ議事を運ぶため、与党議員に好意的な質問や援護射撃の発言を依頼する、といった例はこれまでから珍しくない。ひどい場合は、質問書まで役人が作り、議員はただそれを議場で棒読みするというケースだってある。「審議会」「諮問委員会」もしかり。「やらせ」は、こざかしい役人の常とう手段なのだ。
今にして思う。「ミーティング」とは、よくも言ったものだ。まさに「身内の打ち合わせ」そのものだったのだから。聞き心地のよい言葉には、よくよく気をつけなければいけない。
「やらせ」で思い出すのは、今は亡きダイアナ英国王妃入洛の時のこと。全行程が極秘に伏され、報道陣にも直前まで明かされなかったのに、京都御所の堺町御門付近で待ち受けた幼稚園児と母親たちが王妃を取り囲んで、花束をプレゼントするという「ハプニング」が起きた。王妃はにこやかに応じ、翌朝の新聞には「親善のかわいい花束」と大きく報道されたが、これらの一団がどうして王妃の訪問先や時間を知り、事前に花束まで用意できたのか。後日、警護担当の府警幹部をつついたら、笑って否定も肯定もしなかった。