ネオン街三姉妹

祇園の飲み屋とタクシー運転手からは「景気がよい」と聞いたことがない。いつも「なんでこんなに景気が悪いのやろ」とため息まじりにぼやいている。
事実、ひと昔前までは祇園で飲んでの帰り、タクシーがなくて河原町のほうまで歩くといったことが年に数回はあった。いまはいつでも楽々スイスイだ。
過日、半年ほどごぶさたしていた祇園のスナックへ知人を案内しようとのぞいたら、看板が消えている。その後、また前を通りがかったのでのぞいたら同じように表は真っ暗。自慢の格子戸に「水道閉栓」と書いた水道局の通知が張られていた。つぶれていたのだ。あ〜、「キープ」してあったウイスキーとしょうちゅうのボトルはどうしてくれるんだ。それにしても黙って閉店したぐらいだから、よほど切羽詰まっていたのかもしれない。
不景気な話になってしまったが、先日、東京・銀座と大阪・北新地の両ネオン街が年内にも「姉妹提携」するというニュースを見た。常連客にそれぞれの加盟店を紹介し、初めて訪れる場合でも上質なサービスの高級店を利用できるようにするという。
提携する両料飲協会の加盟店は、銀座1750店、北新地360店の計2100店。高級クラブや料亭などは敷居が高そうだが、気楽に入れるバーやスナックなら出張の多いサラリーマンにもありがたい。
知名度だけなら祇園も、この両者に負けてはいない。だらりの帯を締めた舞妓がこっぽりの音を石畳に響かせて行き交う風情は、いまなお大きなブランド力を保っている。しかし、観光客向けの顔とは別に、一歩中に入れば林立する雑居ビルのネオンは「歯抜け」が目立つ。「超」の付く有名料亭でさえ身売りのうわさが絶えない。
かの新選組局長・近藤勇にさえひじ鉄を食わせたという祇園の「一見(いちげん)さんお断り」も、いまは有名無実に近い。独自の情緒や個性はもちろん大切にしたいが、いつまでも格式やプライドだけで生きていけないのも事実だ。
日本を代表する二大繁華街の姉妹提携をすだれの陰からのぞいているだけでなく、もっと積極的に外の空気を取り入れてみてはどうだろう。故溝口健二監督の名作「祇園の姉妹」の主人公は三姉妹だった。銀座、北新地、祇園の「三姉妹」なんて響きも良いではないか。