オーストリー

オーストリアの駐日大使館が先月、ホームページ上で自国の日本語読みを「オーストリー」に変更すると発表したら、ネットの掲示板に1000にも上る書き込みが寄せられたそうだ。予想外の反響で、当の大使館が一番驚いているのではないか。
大使館のホームページによると、南半球にある「オーストラリア(豪州)」と発音が紛らわしく、しばしば混同されるためというのがその理由らしい。実際、東京・元麻布にあるオーストリア大使館へ間違って電話をかけたり訪れる人が後を絶たず、わざわざ三田にあるオーストラリア大使館までの道順を書いた地図まで用意しているというから大変だ。
大使館の調べでは、もともと日本では19世紀から1945年までは「オウストリ」が使われていた。1873(明治6)年発行の『万国地名往来』には「ヲウストリ」とあり、翌年のウィーン万博でも「オウストリ」と紹介されているそうだ。
現行表記の「オーストリア」は英語の「Austria」に基づくものであり、昨年の愛知万博のパビリオンにはこの英語表記が使われていた。英語では豪州を「オーストレイリア」と発音し「レイ」にアクセントを置くため「オーストリア」とは混同されにくく、問題ないのだろう。ちなみに自国の公用語であるドイツ語では「エ(ウ)ースタライヒ」、フランス語では「オートリッシュ」と発音されているらしい。
ネットの書き込みは例によって無責任なコメントが多い。「後からできたオーストラリアのほうが変えるべき」といった同情派から「ハプスブルク家のプライドが、移民の国を許せないだけ」と嫌みな見方までさまざまだ。
音楽の都、モーツァルト永世中立国、スキーを日本に伝えた国…オーストリアのイメージは人によって違うだろうが、コアラやカンガルー、グレートバリアリーフの豪州に比べると、多くの日本人にとって印象が薄いのは否めない。ここにこそ「混同」の最も大きな原因があるのだろう。
いまのところ、日本の外務省には同国から正式な表記変更の申し入れはないという。大使館では名刺を「オーストリー」に変え、建物表示も順次替えていくとしている。上からではなく、徐々に日本人の意識に浸透していこうとの作戦かもしれない。その意味では今回のホームページでの話題づくり、まずは大成功と言える。