マンガミュージアム

小学1、2年生のころだと思う。風邪で行った先の病院で、診察中に先生から「君は将来、何になりたいのや」と尋ねられたことがある。「漫画家」と答えたら、先生は聴診器の手を止めて「ほう。そんなら手塚ジムシて知ってるか」とこちらの顔をのぞき込んだ。「ジムシと違います。オサムです」と言い返すと「あ、そうか。手塚オサムか、アハハ」と先生がのけぞって大笑いしたのを覚えている。
当時すでに「鉄腕アトム」で名の売れていた手塚治虫は医師でもあったから、病院の先生も関心があったのかもしれない。この先生が「わらじ医者」として82歳の今も現役で活躍している、若き日の早川一光(かずてる)さんだった。
その後、漫画家への夢はプロ野球選手に変わり、はたちを過ぎて「並みの人」に落ち着いた。しかし、子どものころに読んだ漫画の数々は今も鮮明に覚えている。「ロボット上等兵」「冒険ダン吉」「スポーツマン金太郎」…いくつかの主人公は今でも描けるぐらいだ。
先週末に開館したばかりの「京都国際マンガミュージアム」(京都市中京区)=写真=へきのう出かけた。1869(明治2)年にできた旧龍池小学校の敷地、建物を活用し、京都市京都精華大が共同運営する。館長は『もっとマンガを読みなさい』の著書もある解剖学者・養老孟司さん。場所、運営、館長と異色づくめで、雨の平日にもかかわらず大勢の入館者でにぎわっていた。
最大の売り物は、廊下の壁面を利用した「マンガの壁」。館長の著書『バカの壁』から取ったのかどうかは知らないが、総延長140m。3階建ての壁という壁が書棚になっており、約4万冊の単行本が収容されている。入館者は書棚から自由に本を取り出して読める。
まだパソコン検索システムが完成しておらず、来春までは五十音順に並んだ作家名から本を探さねばならない。読む座席の数も少ない気がする。もっとも、書棚の前でページを繰るのも、かつての「立ち読み」気分を味わえて懐かしい面もある。
子どものころは学校の先生がよく「漫画ばっかり読んでたら、あかん」と言っていた。その漫画が、今は立派に改装された学校の建物いっぱいに飾られている。展示にも「世界に誇る文化」「日本の伝統」といった記述が目立つ。
漫画の隆盛・振興はうれしいが、あまりお行儀よく「文化の殿堂」におさまってしまうのもどうかと思う。「紙芝居」「貸し本屋」のわい雑な「におい」もぜひ残してほしい。