京の豆腐

江戸中期に活躍した歌舞伎役者の二代目市川団十郎が「京のよきもの」として「水 水菜 女 染め物 みすや針 寺と豆腐に 黒木 松茸」を挙げている。「みすや針」は三条河原町にあった「三栖屋」の縫い針。「黒木」は大原女が売り歩いた薪のことだ。このふたつと「女」はともかく、他はいまなお「京名物」として通っている。
そう思っていたら、先日の新聞に総務省が調べた「豆腐の世帯当たり年間消費量」が載っていた。それによると、都道府県庁所在地と堺市を除く政令指定都市を合わせた49市の中で京都は66.78丁で42位。1位の盛岡103.54丁、2位の富山93.41丁に遠く及ばない(いずれも03〜05年の平均)。
上は高級懐石から下は「おばんざい」と呼ばれる庶民のおかずに至るまで、豆腐は京都の料理に不可欠の食材だと思い込んでいたのは、どうやら間違いだったようだ。「品質の良さと消費量とは別」といった見方もできるが、負け惜しみの感がしないでもない。
どうやら京都産の「京豆腐」は、地元よりも東京など府外でよく売れているらしい。いまスーパーなどで売れ筋ナンバーワンを誇る男前豆腐店(本社・京都府南丹市)の「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」などは関東で人気を集め、そのブームが逆戻りしてきた格好だ。
生粋の京豆腐が観光客やよその土地で好まれ、関東育ちの「男前」が京都でもてはやされる。「名物」とは、えてしてそんなものかもしれない。
 
 【男前豆腐店の「京都ジョニー」。右は「男」マークの入った「ジョニポン酢」】