師走の待合室で

朝の出がけに近所の医院へ。声が出にくいので、週に1回程度蒸気の吸入と薬をもらいに行っている。
朝一番というのに、2人がもう診察室で受診中。待合室にまだ2人。5番目だ。出勤途中で気がせくが、せっかく来たのだから待つしかない。
さあ次の番、というところでスーツ姿の若い男が待合室に入ってきた。見るからに患者ではない。手にカレンダーらしき巻物数本と小箱を持っている。窓口の女性に「○○薬品です」。医院を回っている薬品卸会社のセールスマンだ。
「はい、どうぞ」。先生の声を待っていたかのように、当方の前を通り過ぎて診察室へ入っていった。割り込みだ。声を上げてやろうかと思ったが、先生の手前だ。お年寄りや小さな子供連れの女性もいたので、ぐっとのみ込んだ。
「師」と呼ばれる高僧までもがお経をあげに走り回るというこの時期だ。営業マンが得意先へ1年のあいさつ回りに忙しいのは分かる。わが職場にも次々とカレンダーや手帳を持った取引先の担当者がやって来る。受け持ちが多いと大変だ。
くだんの割り込み男、診察室で先生と二言、三言話しただけですぐ出てきたが、待合室にいるわれわれには見向きもせず、表でエンジンをかけたままの車に飛び乗っていった。
いくら忙しくても、行儀というものがあるだろう。時間がないのはお互いさまだ。患者同士でも「お先に」と会釈していく人が多いのに。よけいなお世話だが、彼のふだんの営業ぶりまで心配になった。