塞翁が馬

きのうの新聞で、1本の訃報記事が目にとまった。西塚十勝(にしづか・とかち)さん。元日本中央競馬会の調教師で、23日に老衰のため94歳で亡くなった。
元調教師とはいえ、よほどの競馬ファン以外はその名を知らないはずだ。まして現役を退いて長い年月もたっている。その訃報記事が36行にも及んで掲載されたのは、別の角度で特異な経歴の持ち主だったからだ。
記事によると、西塚さんは生前「厄よけ大師」という異名で知られたという。まず1954(昭和29)年、台風で沈没、1400人以上が死亡した青函連絡船「洞爺丸」の乗船券を買っていたものの、偶然乗り遅れて難をまぬかれた。
続いて71(昭和46)年には、悪天候で函館近くの山腹に激突、墜落して乗員、乗客68人全員が死亡した東亜国内航空機「ばんだい号」にも乗り遅れて助かった。奇跡と言うほかない。
2度あることは3度ある。82(昭和57)年、死者33人を出した東京のホテル・ニュージャパンでの火災でも、同ホテルに宿泊していたが、出火時は外出していて無事だった。
訃報の見出しは「九死に一生3度も」。面白いと言っては不謹慎だが、よくもこれほど強運な人がいたものだ。
「人間万事塞翁(さいおう)が馬」を地で行く人生。よくよく「馬」と縁があったのかもしれない。そういえば『人間万事塞翁が丙午』で直木賞を取った青島幸男さんも、その3日前に亡くなったばかりだった。