捨てる

宵の地下鉄で、勤め帰りの中年男性2人が大きな声で話している。「ぼくが今の部署へ来たのが5年前。もうその時からあったはずですが、一度も開いたことがない。そんなものを残しておく必要があるんでしょうかね」。一方の人がまくしたてている。
勤め先の保存文書の扱いについての話らしい。仕事納めの時期だ。書類の山を整理していて古い文書が出てきたようだ。相手の男性が答えた。「ぼくは、2年間見なかった資料は捨てることにしてるよ」
どこの会社でも、たいてい文書の重要度に応じて保存の要否や期間を定めている。しかし、それほどのものではない書類は担当者の判断、もしくは性分しだい。「どうせ」とすぐ捨て去る人もいれば、「いつか」と引き出しやロッカーにしまい込んでおく人もいる。
「どうせ」派の身としては、大事な取材メモを捨てて、後で大あわてした経験も一度ならずあるが、先日の新聞に「捨ててこそ大掃除」という記事を見て、わが意を得た思いがした。いわく「迷う物は迷わず処分」「その場で捨てるくせをつけるのが一番」。
かつて持ち場が替わり、前任者が机の上に積んでおいた資料の山を整理していたときのこと。書類の間からハラリと1枚の紙切れが舞い落ちた。手に取って読むと、郵便局の「マル優限度額通知書」。貯金合計が限度額いっぱいになってますよ、という通知だった。
「おい、えらい金ためてるらしいな」。前任者を冷やかしてやったら、珍しくその晩一杯おごってくれた。捨てる紙あれば、拾う紙あり。