さよなら安藤さん

チキンラーメン」の安藤百福さんがきのう亡くなった。96歳だった。日ごろペンネームに「raou」「ラ王」などと名乗らせていただいている身として、哀惜に堪えない。
大阪・池田の自宅裏の小屋から「即席めん」という未踏の市場を創出した立志伝は、よく知られるとおり。先年、池田のインスタントラーメン発明記念館を訪れた折、あらためて安藤さんの苦闘と業績に感銘した。
日清食品がすごいのは、現在に至るまで一貫して業界の先頭を走り続けているところだ。10年ほど前、安藤さんのインタビューを申し入れたことがある。日清食品からは「高齢」を理由にやんわりと断られたが、代わりに新製品を開発している同社研究所(草津市)を見せてもらった。
白衣姿の若い研究員たちが第2、第3の安藤さんを目指して調理台の前で奮闘していた。評判を聞いては1日に何軒も食べ回り、めんからスープの成分に至るまで徹底研究する。棚には、全国の有名店から集めてきた手書きの分厚いデータファイルが何冊も並んでいた。それをヒントに試作を重ねるのだ。
1日に何食も作っては食べ、食べては作る。「製品になるのはその何十分の一、1年後まで売り続けられるのは何百分の一です」と研究員の一人が笑っていた。
失敗にくじけぬ飽くなきチャレンジ魂−これぞ安藤さんが築いた最大の遺産だと思う。
 
 【写真=安藤さんが自作の本に書いたサイン】