期待権

期待権」。よほど法律に詳しい人以外は、なじみのない言葉だろう。辞書には「将来ある事実が生ずれば、それによって一定の法律的な利益を受けることができるという期待を内容とする権利」(日本国語大辞典)とある。
NHKの取材に応じた団体が、期待していた内容と違う趣旨の番組に改編され放送された、と訴えた。東京高裁は原告の「期待権」を認め、NHKに損害賠償を命じた。
身近なたとえ話で考えてみる。評判の高いラーメン店へ取材に行く。取材の結果、思わしくない印象を受け、批判的に報じることにした。店では、きっと「うまい店」として取り上げてくれると思い、記事の掲載日を心待ちにしている。そこへ「作り方は粗雑、味もサッパリ…」と載った。さて、店主の「期待権」は認められるか?
今回の判決趣旨からすると、この場合、取材に際し「うまい店」として取り上げられる、と相手に期待させる言動があったかどうか。さらに批判的な記事に変更した際、相手に説明したか。これらがポイントというわけだ。
判決は、決してやみくもに「期待権」を認めたものではない。「取材対象者が何らかの期待を抱いても不当に(報道が)制限されるものではない」とも述べている。この判決をもって、取材を受けた側の意に沿わない報道はすべて駄目、とするのは間違いだ。拡大解釈で「期待権」が乱用されないよう注意が要る。