実録取材の現場

「無事救助」のニュースを聞いて、よかったと思った。種子島近海で転覆していたマグロ漁船の乗組員3人がきのう、宮崎沖を救命ボートで漂流中に発見され、3日ぶりに救助された。
漁船は、白い大型船に当て逃げされたという。ひどい話だ。大型船が事故に気づかなかった可能性もあるが、これだけの騒ぎだ。心当たりがあれば今からでも名乗り出て、原因究明に従うのが当たり前だろう。
漁船には、船長と甲板員のほか、テレビのカメラマンが乗っていた。テレビ東京系列の番組「ニッポンの凄腕(すごうで)漁師」の映像取材のため同行していたらしい。
最近、荒海にマグロを追う漁師たちの実録番組が人気を集めている。テレビを見るたびに、漁師の奮闘もさることながら、それをカメラに収める取材も大変だと思っていた。
今回の事故で、図らずもこうした番組づくりの一端が明らかになった。取材は、カメラマン1人。ディレクターや記者はいない。しかも、放送するテレビ局ではなく、下請けの制作会社の社員だ。編集段階での関与はあるのかもしれないが、少なくとも現場取材は任せきりではないか。
危険を冒して取材に挑むカメラマン魂は否定しない。しかし、こうした現場取材を下請けに「丸投げ」している業界の実態には違和感が強い。「あるある…」での問題に通じる「根っこ」を感じる。