元祖「王子」の引退

落語家の三遊亭円楽さんが、きのう口演後に記者会見し、引退を表明した。74歳。この日、30分を予定していた演目「芝浜」に40分以上もかかり「ろれつが回らない。これ以上恥はさらせない」と自ら高座をおりる決意をしたという。
円楽さんは一昨年秋に脳梗塞で倒れ、リハビリに努めてきた。この日の「国立名人会」に高座復帰をかけ、3カ月前からけいこを積んで臨んだそうだ。「声の大小、抑揚がうまくいかず、噺(はなし)のニュアンスが伝わらない」の弁に、名人の誇りと悔しさがにじむ。
8代目桂文楽は78歳の時、口演中に登場人物の名前が出てこず「申し訳ありません。勉強し直してまいります」と高座をおり、そのまま引退した。ライバルの5代目古今亭志ん生は酔っ払って高座で寝込むなど破天荒な芸風で親しまれたが、「完ぺき主義」といわれた文楽はわずかなミスも自分に許せなかったのだろう。
若き日の円楽さんは、端正な顔つきにキザな物言いが売りだった。「関西好み」ではなかったが、テレビで自らを「星の王子さま」と名乗って人気を集めた。引き際も芸風のうち、と見れば、いかにも「王子さま」らしいと言えるかもしれない。
同じ日の新聞に、プロ野球オリックス中村紀洋選手の中日入団の記事が載っていた。こちらは2億円の年俸を棒に振り、2軍で400万円からの出直し。「野球小僧に戻って一から」と。人生いろいろ、転機の春だ。