赤ちゃんポスト

熊本の民間病院が計画している「赤ちゃんポスト」の工事が始まり、連休明けにも運用開始の見通しとなった。とはいえ「ポスト」という呼称も含め、まだまだ社会的には違和感が強く、利用のされ方や病院側の対応が注目されそうだ。
腹を痛めた子を好んで捨てる親はいない。よほどの事情があってのことに違いない。まして当の子に罪はない。「ポスト」は、切羽詰まった命の救済窓口として欧州から広まった。
いまのところ国や自治体では「消極的是認」といった感が強く、マスコミも「救われる命か、捨て子助長か」といった両論併記が目立つ。実態はその両方になる可能性が強い。
30年ほど前。京都駅長、下京区長、七条署長らがポケットマネーを出し合って「愛のともしび会」という活動をしていた。当時、駅前は人ごみにまぎれて捨て子や置き去り事件が多かった。これらの被害児童に手を差し伸べ、励まそうというのが会の趣旨だった。
メンバーが身元引受人になり、名前の分からない子には名付け親にもなった。1人当たり額面3万円、15年据え置きの定期預金と印鑑を贈り、毎年末には収容施設の訪問を続けた。当時の記事を見ると、善意を受けた児童は18年間に46人に上るという。
成人後、自分も給料の一部を会に寄せたり、途中で親が現れて引き取られたケースもあった。世相は変わっても、命の重みは変わらない。ポストは「こうのとりのゆりかご」と呼ばれるそうだ。親心を目覚めさせ、人の愛をはぐくむ「ゆりかご」になることを切に祈りたい。