民間刑務所

全国初の「民間刑務所」が山口県美祢市にできたという。施設の警備や清掃、受刑者の職業訓練など業務の大半をセコム、小学館プロダクションといった民間資本でつくるサポート会社が国から請け負うそうだ。
記事を見て驚いた。「拘禁感をなくし、一般の生活に近づけて社会復帰を円滑にする」のが目的だそうで、施設を囲むコンクリート塀は網目の鉄製フェンスに、部屋の窓は鉄格子から強化ガラスに改められた。なんとテレビを楽しめる独房もあるらしい。
受刑者の服にはICタグを付け、中央の警備室で居場所や移動を把握する。建物の出入りは指静脈認証で管理し、赤外線センサーや振動感知器なども備えている。
ちょうど同じ日の新聞に、帝国ホテル(東京)が従業員のユニホーム1万着にICタグを付け、作業管理や館内のセキュリティー向上に役立てる、との記事が出ていた。まさにホテル並みのハイテク装備、従来にない快適環境の刑務所と言える。
吉村昭の小説『破獄』は、青森、秋田、網走、札幌と4度もの脱獄を繰り返した男の話だ。鉄格子に毎朝、みそ汁をかけて腐食させて破るなど信じられない手口の数々だが、実話がモデルとされる。かつての監獄は、そうしてまで逃れたい過酷で劣悪な場所だったのだ。
刑務所を「矯正教育施設」と位置づける現行制度の下、時代に即した環境改善は必要だとは思う。しかし、あまり快適すぎても違和感がある。「メシ食い」と呼ばれる刑務所志願者が増えないことを願う。