あぐらの復権

「しびれ、しびれ、京へ上れ」。幼いころ、しびれがきれた時、母親から教わったおまじないだ。そう言って3回、指でおでこにつばをつけると治ると言われた。
両足を折って、その上におしりをのせる座り方をだれが「正座」と決めたのか。しびれがきれるたびに、そう恨めしく思ったものだ。いまでも5分ともたない。近ごろはもう法事などの席でも遠慮せず、あぐらをかかせてもらうことにしている。
こんな手合いを考えてか、このほど茶道裏千家京都市上京区)があぐらで楽しめる点前の新作法を考案した。名付けて「座礼(ざれい)式」。千宗室家元自らの発案だそうだ。
前に重心が来るように傾いた座布団に座り、あぐらのまま手が届く高さの台で茶をたてる。客もあぐら座りで「客卓」と呼ばれる台の上に茶菓子や茶わんを受ける。どちらも一式持ち運びができ、和室でも洋間でも気軽に喫茶を楽しめるという。
腰掛けに座って点前する「立礼(りゅうれい)式」も、もとをただせば明治時代に裏千家11代家元が外国人向けに考えたものだとか。伝統を重んじつつ時流に合わせる柔軟さは、裏千家代々の気風なのかもしれない。
「あぐらをかく」と言えば「のんきに、ずうずうしく構える」例えに使われる。しかし「正座」の歴史は意外と新しい。武家小笠原流礼法から畳の普及とともに庶民に広まり、明治の教科書で「正しい座り方」に定着したのだという。「新作法」で、あぐらの復権を願う。