スパ爆発事故

「大阪での空襲を思い出しました」。3人の死者を出した東京・渋谷の温泉施設爆発事故で、現場の目と鼻の先でお好み焼き店を経営している歌手川中美幸さんの母(81歳)がこう話したそうだ。当時は店におらず、近くの自宅マンションで爆発音を聞いたという。
屋根や外壁が吹っ飛び、骨組みだけになった現場写真を見ると、まさに「空襲」さながらのすさまじさだ。原因は調査中だが、施設内に天然ガスが充満していた可能性が高いとされる。繁華街に接した住宅地だが、まさかこんな危険と隣り合わせだったとはだれも思っていなかっただろう。
温泉と言えば、いまは亡き先代の宇治市長を思い出す。20年近く前、3期目の市長選公約に「温泉開発」を掲げ、温泉掘削に執念を燃やした。泉源を求めて市内のあちこちを掘り下げ、最後は飛行機を使って上空から地熱調査までしたが、とうとう公約実現はかなわなかった。
いまのようなブームになる前で、掘削技術は低く、経費も高かった。いまや500m以上の「大深度掘削」も容易で、渋谷の温泉は地下1500mの深さだったとか。費用もかつての半額程度で済むといい、亡き市長が聞いたらさぞ悔しがることだろう。
各地の温泉には、動物が傷を治したとか、弘法大師が開削したと伝わるところが多い。地中から噴き出す効能豊かな湯に古人は霊感を抱き、泉源などに社寺を建てて恐れ敬った。それが、いまや都会の真ん中でも「天然温泉」が当たり前の世になっている。
日帰りの入浴巡りは楽しいが、自然の恵みと背中合わせの脅威も忘れてはならないと思う。