蛍狩り

「ホタルがきれいでしたよ」。かかりつけの鍼灸院で聞いて、ゆうべ見に出かけた。教えてもらったのは、下鴨の疏水べり。住宅地の真ん中だが、知る人ぞ知るスポットだという。
橋の上から疏水を見下ろす近所の人の姿があった。同じように川面に目を凝らしたが、見つからない。あっと思ったが、街灯が陶器の肩に映っているだけだった。
そう言えば、長いこと、ホタルなんて見ていない。子どもと一緒に北山のほうへ出かけたきりだから、10数年ぶりだ。場所を変えて、上賀茂の太田神社へ。カキツバタで知られる境内の池をのぞいたが、真っ暗。だれもいなかった。
最後は、やっぱり上賀茂神社。ここはかつて何度もホタルを見に来ているから大丈夫。案の定、入り口の一ノ鳥居は大勢の親子連れや若い人でにぎわっていた=写真=。御手洗(みたらし)川に行くと、青白い光がポッとひとつ。ホタルだ。
川辺に「ホタル育成中。捕らないでください」の看板が立つ。目が慣れてくると、あちこちに明滅する光を発見、うれしくなる。ふわふわと不規則に宙を舞う光のさまが美しくもあり、頼りなくはかなげでもある。
懐中電灯の強い光が無遠慮に振り回されると、たちまち見えなくなる。背後でこうこうと社殿を照らすライトも無粋だ。かつてに比べ、ホタル自体も減っているのだろうが、明るさに慣れたわれわれの目や感度が鈍くなっていることもあるのではないか。
「犬どもが 蛍まみれに 寝まりけり」(小林一茶)。昔は、犬もぜいたくだったのだ。