更科堀井「さらしな」

さらしなそばは、雪のような白さが身上だ。そばの実の中心部分の粉だけを使ったそばで、江戸の昔から最上級のそばとして珍重される。江戸後期の粋人、大田蜀山人もこの白いそばをごちそうになり「はじめて蕎麦の妙をしれり」と感嘆したそうな。
「更科堀井」(写真1)の歴史は1789(寛政元)年にさかのぼる。元は信州特産の布を商っていたが、そば打ちがうまく、出入りしていた保科家の殿様にすすめられてそば屋に転身。信州更級の「更」と保科の「科」を取って「更科」の屋号を賜ったと伝わる。
名物「さらしな」(840円)は、白くて細い(写真2)。外見は、そうめんと見まがうほどだ。もっとも、そうめんのようなつややかさはなく、歯ざわりはしっかりしている。かむと、ほのかな甘みが口の中に広がる。
つゆは「あま」「から」の2種が付いてくる。「さらしな」には「あま」が一般的とされるが、好みでどちらを使ってもかまわない。「あま」を選んだが、さほど甘さは感じない。ストレートな「から」より、いくぶんまろやかさがあるといった程度だ。
量はしっかりあるのに、のどごしがよく、あっという間にたいらげた。店内は老舗にありがちな気取ったところがなく、居心地がよい。午前11時半の開店より早く着いて、表で待っていたら、店員が出てきて「どうぞ、お入りください」と気安く招き入れてくれた。
手打ちの「もり」も人気。東京都港区元麻布3。

★★★★★(さらしなそばの神髄)