永坂更科 布屋太兵衛「生粉打そば」

「更科堀井」から坂を数十m下ったところにあるのが「永坂更科 布屋太兵衛」(写真1)だ。「堀井」と同じく、江戸中期の寛政年間、保科家に出入りした布屋太兵衛を始祖とする。名代ののれんは太平洋戦争前夜に途絶え、その後それぞれに枝分かれしたらしい。
品書きもよく似ている。看板メニューの「御前そば」は「堀井」の「さらしな」に、「生粉打(きこうち)そば」は同じく「太打ち」に当たる。ともに申し合わせたかのように840円。そばつゆに「あま汁」「から汁」の2種が出てくるところも一緒だ。
白いさらしなそばは「堀井」でいただいたので、こちらでは「生粉打そば」を頼んだ(写真2)。つなぎを一切使わず、ひきぐるみのそば粉10割のそばで、直径2mmほどもある太さが特徴だ。
色濃い田舎風のそばは、ぼそぼそとした食感ながら、そば本来の風味が強く、独特の存在感がある。上品なさらしなそばに比べて、野趣を感じる味わいだ。つゆは「から汁」を選んだ。癖がなく、自己主張の強いそばにうまく調和した。
「あま汁」のほうも食後にそばちょこに取って味を見たが、こちらは少し甘さが前に出過ぎて、くどい印象を受けた。甘党でなければ「御前そば」も「から汁」が無難だろう。
表通りに沿って大きくガラス窓が開き、店内が明るい。飾らず、開放的な雰囲気がよい。東京都港区麻布十番1。

★★★★(太打ちに老舗の自信を感じる)