執念のまなざし

「愛車」と言っても、大津市在住の米国人画家ブライアン・ウイリアムズさんの車はただのマイカーではない。電線工事などで使われる、長い鉄製アームの先にカゴの付いた「高所作業車」だ。
ブライアンさんが「愛車」に乗り始めたのは昨年秋。わざわざ高所作業車の免許を取り、地上11mのカゴの上から琵琶湖の風景画を描いている。最初、日本人の奥さんにも一笑されたそうだが、彼は本気だった。「獲物を探すトンビの目になるしかない」。
来日して35年。琵琶湖の風光を愛し、描き続けるブライアンさんを高所作業車に駆り立てたのは、ほかならぬ湖国のすさまじい変ぼうだった。自然と生物が共生し、調和して、美を感じる環境や景観を彼は「日本の原風景」と呼ぶ。それが急速に失われてきた。
ブライアンさんの絵には、高速道路やビルなどの近代施設は除かれている。10数年前から、目の前の実風景にかつて絵にして記憶している原風景を重ね合わせて描いているという。今はもうない、でも少し前までは確実に存在していた、そんな幻になってしまった原風景である。
視点を変えれば、また違ったものが見えるはず。ブライアンさんのカゴ乗りは、見る位置を変え、もう一度新たな原風景を探求しようとする執念の挑戦だ。
守山市の佐川美術館で開催中の「琵琶湖の原風景をもとめて〜ブライアンのまなざし」展(〜9月2日)を見た。「トンビの目」からとらえた光景を湾曲パネルに描いた雄大な作品の数々に、画家の叫びを聞く思いがした。

【写真=「琵琶湖の原風景をもとめて」展のポスター】