手を合わす

毎週通う鍼灸院で。隣の診療台から先生の声が聞こえる。「手を合わしてごらん。はーい、合掌」。運動障害のある女児がリハビリを受けている。そばのお母さんに先生が言う。「手を合わせるのは脳の発達にいいんですよ」。合掌は、東洋医学で説く「気功」の基本だという。
以下は、このとき聞いた先生の受け売り。
<人間の頭には言語、計算、記憶などをつかさどる左脳と、イメージ、創造、ひらめきをつかさどる右脳がある。健全な発達には両者のバランスが必要だが、頭の中では「橋(きょう)」と呼ばれる細いパイプでつながっているだけだ。
手のひらの一番くぼんでいるところを「労宮(ろうきゅう)」といい、最も気を発するツボとされる。両手の指先をきちんとつけ、労宮を合わせることで左右の脳がつながり、全身に電流が巡って体内を活性化させる。
学校教育は主に左脳を刺激するもので、最近「キレる」子が多いのは左脳偏重のアンバランスと関係がありそうだ。東洋では古来、あいさつや礼儀、宗教行為などとして手を合わせてきたが、こうした意味で非常に重要なしぐさなのだ>
−ざっとこんな趣旨だった。
先生の説は、気の流れやツボの経絡を重視する鍼灸の立場からのものであり、別の角度からの反論、異説はもちろんあるだろう。それはともかく、「合掌」という何気ない日常の動作にも意義があるのだという指摘に興味をそそられた。
そういえば、わが身を含めて近ごろ「いただきます」「ごちそうさまでした」「ありがとうございます」ときちんと手を合わせることがほとんどない。反省、合掌。