メディアスクラム

社会的に関心の高い事件や事故の現場に記者が殺到、大勢で関係者に強圧的な取材をする行為を「メディアスクラム」と呼ぶ。「集団的過熱取材」などと訳され、日本新聞協会などでは人権侵害の恐れがあるとして、その自粛と取材の適正化を申し合わせている。
連日テレビのワイドショーに取り上げられてきた大相撲の力士死亡をめぐる騒ぎは、時津風親方の解雇処分でピークに達した。相撲部屋の前でも国技館の中でも、関係者の行く先々に多数の記者やカメラマンが押しかけ、絶叫と大混乱の取材現場を演じている。
核心に触れることなく、責任を棚上げにしてきた日本相撲協会が、文科省の指導があったとはいえ、重い腰を上げざるを得なかった一因に、このメディアのすさまじい取材攻勢があったと見ることはできる。これがなければ、ここまで事態が進展したかどうか疑わしい。
その「功」は認めるとしても、やはり行き過ぎの感は否めない。取材陣に囲まれ、両手で顔を覆いながら退出する時津風親方の写真からは悲鳴が聞こえてきそうだ。本人が会見に応じず、自らまいたタネとはいうものの、だから「メディアスクラム」が許されるということにはなるまい。
公人で、かつ自分で非を認めているとはいえ、まだ警察が強制捜査に踏み切ったわけではない。いわば「推定無罪」の段階だ。これまでの反省や申し合わせは、どこへ行ったのだろう。
過熱した現場に、そんな理屈は届きそうにないのが少し残念だ。