木簡の誓い

滋賀県西浅井町で、おもしろい木簡が見つかったらしい。「私は絶対盗みをしません」。平安時代運送業者が神社に納めた誓いの文書だという。
琵琶湖最北端の「塩津港遺跡」で、神社の堀跡から55本の木簡が出土した。うち文字が読み取れたのは5本。どれも似た内容の「起請文(きしょうもん)」だったそうだ。
「○○(業者名)が請け負った荷物をもし盗んだら、全国1万3700余所の神罰を体の8万4千の毛穴ごとに受けます」−。
登場する神は梵天帝釈天、えんま大王、八幡大菩薩…インド、中国から近江の土着神までのオールスター。その罰を全身の毛穴ごとに受けようというのだから、大変な決意だ。
塩津港は、琵琶湖水運の要衝。敦賀で陸揚げされた日本海の海産物はここで船に積み替えられ、湖上を渡って京へ運ばれた。荷を預かる業者にとって、盗みや横領、紛失は信用にかかわる一大事。誓詞を神社に奉納し、広く村人らにも表明したのではないかという。
「盗」の文字は、ひときわ強い筆跡で書かれているそうだ。単なる誓いだけでなく、それほど責任を持つという宣伝の意味も多分にあるのだろうが、裏を返せば、当時それだけ荷の盗みや横流しが多かったということになる。
石川五右衛門ではないが、いつの世も悪事の種は尽きない。後を絶たない汚職や政治資金の不正。ひとつ閣僚諸氏にも「身体検査」より、こんな「起請文」を書いてもらってはどうか。全身の毛穴から神罰が…と言っても、今のセンセイ方にどれほど効き目があるか分からないが。