忘己利他

きのうに続いて、新聞大会での話をもうひとつ。天台座主、半田孝淳さんが記念講演「宗教者からみた世界平和」の中で紹介した古今の宗教者二人の言葉が印象に残った。
ひとつは、伝教大師最澄)の「忘己利他」(もうこりた)。「己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり」。自分のことばっかり考えないで、まず他人のことを思え、との教えだ。
半田さんは、地球上で後を絶たない戦争や大量虐殺について「宗教を信じることで独善や排他になってはいけない。他の宗教を尊重し、尊敬することが平和を目指す唯一の道」と述べた。
人を救うはずの宗教が、紛争のもとになっている。確かに、大師の「もうこりた」で「(争いは)もう懲りた」にしなければいけないと思う。
もうひとつは、インドのマザー・テレサの言葉。「『愛』の反対は『憎悪』ではない。『無関心』である」
人の苦しみを平気で見過ごすのではなく、みんなが関心を持つことが大切だ。時には敵意をむき出しにした憎悪より、知って知らぬ顔で無視する方が人を傷つける場合がある。まず人に目を向けよう−というのは、伝教大師の「忘己利他」にも通じる考えだ。
親が子を殺し、子が親を殺す。人としてあるまじき非道の横行に、半田さんの話しぶりにも熱がこもる。マイク越しとは言え、90歳とは思えぬ大きな声が何度も会場に響いた。