笑顔検出カメラ

みんながかしこまって写真機の前に並ぶ。写真屋さんが大きな声で「写しますよ。ハイ、チーズ!」。そのとき、どこにまぎれていたのか寅さんが「ハイ、バター」。一同、思わず噴き出して大爆笑。映画『男はつらいよ』に、確かそんなシーンがあった。
自然な笑顔を撮るのは難しい。レンズを向けると、どうしても表情が硬くなる。お決まりの「チーズ」より、寅さんの「バター」のほうがはるかに良い顔を撮れたに違いない。
先月、そんな長年の苦労から解放するスグレ物のデジカメが、ソニーから出た。あらかじめ撮影モードを設定しておくと、レンズを向けるだけで笑顔をカメラが感じ取り、シャッターを切る。世界初。シャッターチャンスを逃すことなく、自然な笑い顔が撮れるという。
世界中の笑顔を集めて、スーパーコンピューターで解析したデータが組み込まれているらしく、作り笑いなどには反応しないそうだ。すごい技術だと感心する一方、写真に撮るのは笑顔だけではなかろうに、実際にだれが買うのか、とちょっぴり疑問にも思っていた。
心配には及ばず。「食事をおごってもらい、写真を撮ってもらったが、シャッターが動かなかった。愛想笑いだといわれ、嫌がらせを受けた」などと、この1カ月に全国で30件もの訴訟ざたが起きているとか。それだけ話題になり、売れている表れとも言える。
ソニーでは「ハイ、チーズ」に代わって、これからは「ハイ、ソニー」で、と宣伝しているが、今月に入って同様の機能を備えた新製品がオリンパスからも出た。メーカーとしては、いつまでも笑顔でおれなくなったようだ。