千とせ「肉吸い」

うどんからうどんを抜いたら、何になる? そう、だしつゆだけの「吸い物」だ。
その昔、そんなギャグのような注文をした客がいた。吉本新喜劇の「とぼけ」役で人気を集めた花紀京。二日酔いの昼食にやって来て「肉うどんのうどん抜き」を頼んだという。名物「肉吸い」の起こりとして語られる、吉本のおひざ元ならではのエピソードだ。
なんばグランド花月(NGK)の裏手、いかにも町のうどん屋さんといった店構えだが、昼前から行列ができる(写真1)。目当ては、もちろん「肉吸い」。店内で観察していたら、みごとに来店客全員がこれを注文した。
カツオと昆布で取ったうどんのだしつゆに、甘くたかれた牛バラ肉の細切れと刻みネギが浮かぶ(580円、写真2)。まさに「肉うどんのうどん抜き」。肉の下に温泉玉子が1個沈んでいる。甘辛い牛肉とマイルドな玉子の味が一体となり、だしのうま味とよく合う。
これに、小ライスに生卵をのせた「小玉(しょうたま)」を組み合わせ、肉吸いと卵かけごはんを交互にかき込むのが「通」の食べ方らしい。事実、男性客のほとんどがそうしていた。こちらは、うどんの味を試すため、あえて「けいらんうどん」を追加注文した。
結果、うどんは×。ゆがきが不十分で、興ざめ。けいらんのあんも眠い味だ。ひょっとしたら、だから花紀京は「うどん抜き」にしたのかも…と要らぬ勘繰りをしてしまった。
店内はテーブル席だけ。店のおばちゃんといい、新喜劇に出てくるうどん屋そのままの庶民性がよい。吉本タレントとの遭遇率も高いとか。大阪市中央区難波千日前。

★★★★(話のタネにどうぞ)