天皇の反省

外来魚のブルーギルは、ブラックバスと並ぶ琵琶湖の敵役だ。雑食性で繁殖力が強く、湖の生態系を破壊した元凶とされる。わが愛するフナズシをピンチに追いやったのも、彼らの旺盛な食欲のせいらしい。
そんな魚を日本に初めて持ち込んだのが、いまの天皇だとは知らなかった。日曜日に大津市で開かれた「全国豊かな海づくり大会」の式典で「50年近く前、私が米国より持ち帰ったブルーギルが、このような結果になったことに心を痛めています」と述べたという。
皇太子だった1960年に訪米した際、シカゴ市長からブルーギルを贈られ、持ち帰ったそうだ。当時は食用魚としての期待が大きく、水産庁の研究所を通じて滋賀県など各地へ分け与えられたらしい。
この話、地元ではかなり知られているようだが、積極的に公の場などで語られることはなかった。せっかくの善意が生態系を乱す元となり、一番心苦しい思いをしていたのは魚類研究者でもあった天皇自身に違いない。その意味で、今回の率直な「反省」表明はよかった。
雑誌『サライ』11月1日号に、面白いエピソードが紹介されている。南紀の魚を描き続ける福井正二郎さん(94歳)が、皇太子時代の天皇に御所へ招かれた時「田舎住まいで資料集めに苦労しています」と述べたところ、直ちに入手し得る最高の資料が届いたという。
天皇が自ら選びそろえた資料で、その後も福井さんのもとには、参考になりそうな記事が出るたびに送られてくるそうだ。魚好きで、律儀な天皇の人柄がうかがえ、少し近しく思えた。