松本楼「ハイカラビーフカレー」

東京・日比谷公園の真ん中にある松本楼は、1903(明治36)年の創業。日本の洋式公園第1号とされる同公園とともに100年を超す歴史を刻んできた(写真1)。
当時は、西洋文化の香り漂う公園内を散策して松本楼でカレーライスを食べ、コーヒーを飲むのが「ハイカラ」な若者たちのファッションだったそうな。「ハイカビーフカレー」(700円、写真2)は、そんな往時の雰囲気を伝える同店の名物メニューだ。
具は、大ぶりの角切り牛肉だけ。カレーは、タマネギにケチャップやソース、しょうゆなど親しみのある調味料も加えて、2日がかりで仕込まれるという。やや酸味が強く、それでいて口に中にどこか懐かしい香りと甘さが広がる。
ところで、現店舗は3代目。初代は関東大震災で焼失、2代目は1971(昭和46)年秋、沖縄返還協定に反対する過激派グループに火炎瓶を投げ込まれて全焼した。2年後の営業再開を機に始まったのが、今に続く「10円カレー」だ。
被災後、全国から寄せられた激励に感謝して毎年9月25日だけ「ハイカビーフカレー」を10円で提供している。もちろん、味も量もふだんと同じ。例年大勢のファンで長い列ができるそうだが、10円以上払って帰る人も少なくないという。ひと皿のカレーを介した老舗と客の「ちょっといい話」だ。
木もれ日の差し込む店内は明るく、開放的。天気の良い日はテラスも気持ちよさそうだ。東京都千代田区日比谷。

★★★★★(風雪百年のカレー)